Takuya Yada's 重金属ブログ

関西で音楽活動(主にメタル)をしているTakuya Yadaがメタル、イギリス、映画について考察するブログです

映画考察 ケン・ローチ「明日へのチケット」


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こんばんは!
今日は、僕の大好きなイギリスの監督ケン・ローチさんの明日へのチケットの考察をやりたいと思います。

 

 

 

1️⃣ あらすじ

ある科学者がイタリアで行われた集会から家に帰るためにミラノの駅にいた。
ミラノの駅には、たくさんの警察が居て、何か様子がおかしい。
どうやら、不審物があるという通報があり、列車は動かない。
異常がないことが確認された列車は、進み出す。

その列車には、出稼ぎに出た父親と合流する1組のアルバニア人家族が乗っていた。
たくさんの人々が乗り降りする中、アイルランドからチャンピオンズリーグをローマに見にきたセルティックのファンの3人が乗り込んだ。
アルバニア人家族の子供が、ベッカムのシャツを着ていた事から、彼らとサッカーの話で盛り上がったが、その後、アイルランド人グループの一人の乗車券がなくなっていた。



2️⃣ 監督 ケン・ローチとは?

この作品を考察する際に、監督ケン・ローチという人物を理解すれば、作品の理解度が上がると思うので、紹介します。
ローチ監督はイギリス、ミッドランド(日本で言えばど真ん中の名古屋くらいかな?)ウォリックシャー出身の84歳。
ミッドランドという地区は、ローチ監督が若い時に第2次産業革命が起き、工場労働者になるしか働き口がなく、労働組合に入る人が増え、低賃金化や身売りが日常化した。
こんなバックグラウンドから作品は、一貫して、労働者階級や移民など社会的立場の弱いものの視点で描く、左翼的な作品が多い。
(ちなみに、ウォリックシャーは、ラグビーが生まれたラグビーという街がある地区)
日本との接点は、是枝裕和監督と交流があり、合作で本を書いたこともある。

個人的には、同世代で学生運動にも参加していたジブリの宮崎・高畑コンビが作風も似ていると思いますが。

麦の穂をゆらす風」「わたしは、ダニエルブレイク」でパルムドールも受賞している。

 


3️⃣ 考察

階級社会や移民問題、貧困。 このような事を頭に入れておけば、この映画の見方がちょっと変わって見えてきます。

まずは、序盤の教授のセリフ

「子供の頃、わたしはよく部屋に引きこもった。昼下がりにピアノの音が、、しかし暗くて誰かわからなかった。 まるで、白昼夢の様だった。」

 

普段、一見成功しているように見える、社会的身分の高い人ほど、私生活を犠牲にしていることが多いのは、先進国ではよく聞きます。
(現に、日本でも生涯未婚率が40%になろうとしていますし)
そして、この映画の最初のシーンで、なぜこういう教授の目線で描かなければいけなかったのかという事です。
現に、映画の中盤から教授は一切出てこなくなるいわゆる初期段階で内容量の多い状況を単的に説明するために配置されたキャラクターです。

列車内にいる人を分類してみます。行政(警察官)、上流階級(食堂車の人々)、中流階級(文句を言ってグリーン車へ無料で移ったおばさん)、移民(アルバニア人家族)、労働者階級(セルティックファン)。

これらの登場人物は、映画内では、自分の仕事やキャラクター、役柄を忠実に守り、それらしく行動しています。
しかし、教授だけが、心がそこにあらずに、登場人物に振り回されている、俯瞰(ふかん)的なキャラクターです。
この客観視で最初の列車内を描く事で、この列車というのが、小さな国家、社会だと考察できることができます。

教授にしっかりとした意志やキャラクター的な目的があれば、観客は教授を主人公だと思い、教授にだけ気を払うようになりますので、絶妙な演出だと思います。

さらに、その車内の国家、社会の不安を描くのに、列車が走り出す前に、不審物があると連絡があったという演出も素晴らしい。
ある地区がテーマなら、その地区の問題を描けば伝わりますが、列車内はみんな住んでる所、国すらもバラバラの人たち。
そんな人たちを、不審物一つで、共通する不安という形で表現し、実際、この緊張感というのが、列車内をただの車内でなく、国家や社会の比喩だとという所にリードしていくアイテムになっています。

ネタバレにならない程度に書きますと、最後に労働者階級が勝つ事で、深読みせずに映画をみている人にも感動が伝わる様にしているんですよね。

確かに、あのセルティックファンを、ローマファンの軍団が助けるシーン。なんか頑張ろうと思ってしまうんですよね。

ルールを作れば、作った人、それを守る人の間にパワーバランスが生まれるのは当然ですが、結局、ドラマというのはそのルールの下に生きている人が作るものだというテーマが溢れている様なエピソードの連続でこの映画は構成されています。

ローチ監督には珍しく、英語以外の言語の映画なので、ローチ監督の作品の中では、中から上級向けですが、僕の中では、一種の完成形が見える、魅力たっぷりな作品だと思います。


興味のある方は是非!!


では、また次回! 🤘🤘Stay Metal🤘🤘